第9地区
2009年話題の作品だった。ブルーレイで観た。

本当に考えさせられる作品だった。臨場感、現実感を出すためにハンディカメラを多用したドキュメンタリータッチで描かれた本作は、多くの問題を提示しながらも中身は娯楽作品だ。クライマックスのアクションシーンは1級の仕上がりだし、VFX処理もうまい。とても新人監督とは思えない仕上がり。
しかし、その娯楽性よりもドラマの設定と物語の骨格にある社会問題提示のほうがインパクトが強く、じっと考えさせながら観てしまった。まさに、製作者側の思う壺にはめ込まれてしまった形だ。
多少グロいが、時間をしっかりとって観るべし。
舞台はヨハネスブルグ。南アフリカを舞台にしたところが本作のミソ。これがすべてだといって良い。
宇宙人がなぜ、ニューヨークやEU諸国などの世界的に発展した「先進国」に飛来せずヨハネスブルクを選んだのか誰も知らない。宇宙船はヨハネスブルクの上空に停止したまま動こうとしない。南ア政府は宇宙船の外郭を突き破り内部に侵入。そこには、200万人に迫る宇宙人が不衛生な環境で衰弱しきっていた。故障した宇宙船で宇宙を漂流し、瀕死の状態で地球へたどり着いた・・・というのだろうか?
人権保護?動物愛護?の精神から彼らを難民として受け入れ、仮説住宅に住まわせることになった。それから28年の歳月が流れ、エイリアンたちは下級市民として第9地区に隔離されている。エイリアンはその容姿からエビと呼称され蔑まされていた。その実態は、旧南ア政府が執っていたアパルトヘイトを連想させる。
それゆえに世界中の人権団体がエイリアンの保護と権利確立の運動を行う一方で、市民感情としてはエイリアンを侮蔑の対象としてとらえていた・・・・
この設定だけ問題作だ。
第9地区のエイリアンが増殖することともに第9地区のスラム化が進み、郊外に作られた第10地区への移住が決定される。ここにも、エイリアンの意見や主張があるわけでなく、人間側の都合だけで行われる。事情を知らないエイリアンたちから、移住承諾書にサインを無理矢理取りつけるのが本作の主人公であるヴィカス。彼は隔離地域を管理する民間企業MNUの現場責任者にであり、特別エイリアンを蔑視しているわけでなく擁護するわけでもない。その考え方や感情は本作の世界の人間が持つ普通の感情だと映画を見る者に伝えてくる。
移住合意の手続きを進める風景がドキュメンタリー風にたんたんと描かれ、世界観の異様さやエイリアンへの同情心を見ている側に植えつける。その背景が南アという舞台設定であり、エイリアンを下級市民として扱うのは南アの格差社会の問題提示にも写る。一方で、そうした問題は南ア独自の問題ではなく、世界中にある問題であり、対象を宇宙人にしたことで変に偏見視せずに受け入れられるという不思議な現象を自分自身に感じながら映画を観た。
この感覚が新しい。そしてドキュメンタリー風に作品を作り上げたことが、臨場感を増し、現実的感じさせる。ひょっとして地球の裏側ではこうしたことが普通に起こっているのではないか?と・・・
さて作品は、主人公ヴィカスが謎のウイルスに感染しエイリアンに変身しだすところから大きく展開する。そのウイルスがどこから来て、いつ感染したのかも良くわからない。怪我をしたときに接触感染したんだろうが、こうしたことがこれまでにかなったのか?増殖するエイリアンの何パーセントかは人間がエイリアン化したものでは無いのか?などと想像している間を与えずにドラマが展開しだす。
スラムの地下に眠る宇宙船のコントロール船。これを復活させ母星へ帰ろうとするエイリアンの地下組織。
エイリアンの先進技術を取り込もうとする民間企業MNU。特にエイリアンの武器。ヴィカスがエイリアン化することで遺伝子レベルで認証するエイリアンの機器=武器をつけるようになる。これをMNUは見逃さない。ヴィカスを活かさず殺さずにエイリアンの科学技術を盗む道具にしようとする。
MNUの医療施設から脱したヴィカスは行き場を失い第9地区に。NMUの傭兵部隊はヴィカス捕獲とエイリアン一掃に動き出す・・・・ここからがアクションの連続。次々登場するエイリアンの武器。エイリアンの先進技術。
最後はパワー度スーツが登場し・・・・ヴィカスは、自分自身が人間に戻るため、宇宙船に乗り母星へ帰るエイリアンの手助けをする。その結末は・・・・・・・・
誰も救われない、何もおこらない結末。果たして宇宙人はヴィカスを治療するために帰ってきてくれるのか?それよりも、作品の世界観が訴える問題提示に頭を悩ませていっぱいになる。ただの娯楽作品ではない。考えさせられる作品だ。
南アの歴史、アパルトヘイト。格差社会。
息子と話しながら、平和とは何かをまた考えさせられた。
そうそう、何百万の宇宙人が地球にやってくるのは、バルタン星人の話に似ている。骨格はバルタン星人の物語そのもの。しかし、その宇宙難民を受け入れたところから地球がどうなるかを想像したんだろうね。
宇宙人の姿も昆虫的でバルタン星人に見えなくもない。バルタン星人の着ぐるみはウルトラQに登場したセミ人間の着ぐるみを直したもの。そう考えると、バルタン星人へのオマージュがちりばめられているように思うね。
ただ、彼らは地球を侵略しようとしたんじゃなく、星に帰りたかったんだけど。


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